夏日、枯れた花々の

鮮やかな菊、真っ白な百合、華やかな桔梗……。瑞々しく咲き誇っていた献花たちは、ここ数日の夏の日差しと湿度ですっかり色褪せ腐っていた。

「……」

枯れた花独特の生臭さを浴びながら、わたしは今日もそこにしゃがみこむと手を合わせて瞳を閉じる。視界を閉じたからか、歩道橋の下を通過していく車の音がはっきりと聞こえた。
……これは冥福を祈っているわけじゃない。わたしは、自分勝手で残酷な願いをただじっと祈る。
どうか、数日前ここで自殺した人があなたじゃありませんように――と。
人気のないこの橋の上で、都合が合えば時々話し相手になってくれる、名前も知らないあなた。薄く奇妙な縁だからこそ気が楽で、ここにいる日はちょっとだけ特別な日だった。
あの日――警察の事故処理や野次馬で珍しくこの橋が賑わっていたあの日から、一度も顔を見ていない。今にも現れて、献花の前で手を合わせているわたしを不思議そうな顔で眺めてほしい。都合の良い想像と期待を、毎回毎回瞼の裏に浮かべてしまう。しまうのだけれど――
瞳を開ける。開けたところであなたはいない。枯れた花と、それを嘲笑うかのように青々と、伸び伸びとした綺麗な空があるだけだった。

「……、どうして」

茶色く萎びた花弁の上に、ぽつりと空を映した雫が一滴零れ落ちた。


キャラクター
■鹿野 空見(しかの そらみ)
時間帯によって変わる空色を身に宿した見えない少女。-空色カノジョ

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